人を大切にしながら、自分の心にも気づくために
「相手はどう思っただろう。」
「あの言い方で嫌な気持ちにさせなかっただろうか。」
「断ったら、困らせてしまうかもしれない。」
人と関わったあと、相手の表情や言葉を何度も思い返してしまうことはありませんか。
相手が少し不機嫌そうに見えると、
「私が何かしてしまったのではないか。」
と不安になる。
本当は断りたいことがあっても、
「相手も大変そうだから。」
と引き受けてしまう。
そして、「あなたはどうしたいの?」と聞かれた時、すぐに答えが出てこない。
そんな自分に気づいて、
「私は、自分の意見がないのかもしれない。」
「優柔不断なのかな。」
と悩んでしまう方もいるかもしれません。
でも、自分の気持ちがわからなくなるのは、気持ちがないからとは限りません。
もしかすると、これまでずっと、自分の気持ちより先に相手の気持ちを考えることが習慣になっていたのかもしれません。
今回は、人を大切にしようとするうちに、自分の心が見えにくくなってしまった方と一緒に、「自分の気持ちに気づくこと」について考えてみたいと思います。
相手の気持ちを考えられることは、大切な力です
相手の表情や声の調子に気づく。
その場の雰囲気を感じ取り、言葉を選ぶ。
困っている人がいれば、できることを考える。
こうした力は、人と関わるうえでとても大切です。
誰かの気持ちを想像できるからこそ、傷つけないように配慮できます。
相手の立場を考えられるからこそ、関係を丁寧に築くことができます。
ですから、
「相手のことを考えすぎる自分はダメだ。」
「私の態度決定はいつも相手の様子次第。まるで自分自身がないみたい。」
と、すべてを否定する必要はありません。
それは、あなたがこれまで人との関係を大切にしてきた証でもあるからです。
ただし、その力がいつも自分より相手にだけ向いていると、少しずつ苦しくなってしまいます。
相手が何を感じたか。
相手は何を望んでいるか。
相手にとって何が正しいか。
そればかりを考えているうちに、
「では、私はどう感じているのだろう。」
という問いが、心の奥へ押し込まれてしまうことがあります。
そして、「わたしが感じていることは本当はこうじゃないのに。」
という違和感が募ってしまうこともあります。
相手の気持ちは、どれだけ考えても完全にはわかりません
相手を大切にしたいと思うほど、私たちは相手の気持ちを正確に読み取ろうとします。
「あの沈黙には、どんな意味があったのだろう。」
「笑っていたけれど、本当は嫌だったのではないか。」
「返事が短かったのは、怒っているからだろうか。」
しかし、相手の心の中を完全に知ることはできません。
同じ表情でも、疲れていただけかもしれません。
返事が短かったのも、忙しかっただけかもしれません。
もちろん、本当に不満を感じていることもあるでしょう。
けれど、確かめていない段階では、どれも可能性の一つです。
それでも不安が強い時には、一つの可能性が、いつの間にか事実のように感じられてしまいます。
「きっと怒っている。」
「たぶん嫌われた。」
「私が悪かったに違いない。」
こうして相手の気持ちを考え続けると、心は安心できる答えを探して、同じところを何度も回り始めます。
前回のコラムでは、答えを探し続けてしまう時、本当に求めているのは「答え」ではなく「安心」なのかもしれない、とお伝えしました。
前回のコラム:答えを出そうとしすぎて疲れてしまう人へ|考え続ける心との付き合い方【前編】
答えを出そうとしすぎて疲れてしまう人へ – 考え続ける心との付き合い方【後編】
相手の気持ちを考え続ける時も、同じことがあります。
私たちは相手の心を知りたいだけではなく、
「嫌われていない。」
「関係は壊れていない。」
「私は大丈夫だった。」
という安心を求めているのかもしれません。
「正しい対応」を探すうちに、自分の気持ちが見えなくなる
相手の気持ちを考え続ける人は、同時に「正しい対応」も探していることがあります。
「ここでは引き受けるべきだろうか。」
「断ったら冷たい人だと思われないだろうか。」
「今は自分が我慢した方が丸く収まるのではないか。」
そうやって考えること自体は、悪いことではありません。
ただ、いつも「どうするのが正しいか」から考えていると、もう一つの大切な問いが抜け落ちやすくなります。
それは、
「私は本当はどう感じているのか。」
という問いです。
例えば、頼み事をされた時。
頭の中では、
「相手も困っている。」
「断ったら申し訳ない。」
「私がやった方が早い。」
と考えているかもしれません。
けれど、心の中では、
「本当は疲れている。」
「今日は休みたい。」
「また私だけが引き受けるのはつらい。」
と感じているかもしれません。
どちらかが間違っているわけではありません。
相手を助けたい気持ちも、本当です。
休みたい気持ちも、本当です。
人の心には、相反する気持ちが同時に存在することがあります。
ところが、「正しい答えを一つ出さなければ」と考えると、自分にとって都合の悪い気持ちをなかったことにしてしまいます。
そして、あとからどっと疲れたり、理由のわからない苛立ちが出たりすることがあります。
それは、わがままだからではありません。
気づかれないまま後回しにされた心が、
「私はここにいるよ。」
と伝えているのかもしれません。
自分の気持ちがわからないのは、心が空っぽだからではありません
長いあいだ相手を優先してきた方ほど、
「自分の気持ちを大切にしましょう。」
と言われても、戸惑うことがあります。
「大切にすると言われても、自分が何を感じているのかわからない。」
「何がしたいのか聞かれても、何も浮かばない。」
そんな時、自分には気持ちや意見がないように思えるかもしれません。
けれど、気持ちがないのではなく、気づく前に別のことを考える習慣が身についている可能性があります。
何かが起きた時、すぐに、
「相手はどう思うか。」
「迷惑にならないか。」
「正しいのはどちらか。」
と考える。
その速さがあまりにも自然なので、自分の気持ちが現れる前に、相手の事情や正解探しで心が埋まってしまうのです。
だから、自分の気持ちに気づくために必要なのは、強い自己主張ではありません。
まずは、ほんの少し立ち止まることです。
「私は今、何を感じている?」と尋ねてみる
自分の気持ちがわからない時、いきなり
「私はどうしたいのだろう。」
と考えるのは難しいことがあります。
「どうしたいか」は、選択や決断を含む問いだからです。
そこで、もう少し小さな問いから始めてみます。
「私は今、何を感じている?」
例えば、
- 少し疲れている
- 不安を感じている
- 本当は嫌だった
- 寂しかった
- 腹が立っている
- 断るのが怖い
- 期待に応えたい
- 助けてあげたい
- もう少し休みたい
うまく言葉にならなくても構いません。
「なんとなく重い。」
「胸がざわざわする。」
「気が進まない。」
それも立派な感覚です。
感情に正解や不正解はありません。
「こんなことで腹を立ててはいけない。」
「相手も大変なのだから、疲れたと思ってはいけない。」
そうやって判断する前に、
「私は今、腹が立っているんだな。」
「本当は疲れているんだな。」
と気づいてあげる。
それだけでも、自分の心との関係は少しずつ変わっていきます。
自分の気持ちに気づくことと、そのまま行動することは別です
ここは、とても大切なところです。
自分の気持ちを大切にするというと、
「思ったことを全部言わなければならない。」
「嫌なら、すぐ断らなければならない。」
「相手に合わせてはいけない。」
と感じる方もいるかもしれません。
しかし、自分の気持ちに気づくことと、その気持ちのまま行動することは別です。
例えば、
「本当は断りたい。」
と感じたとしても、事情を考えたうえで引き受けることもあります。
「腹が立っている。」
と気づいても、すぐ相手を責める必要はありません。
「今日は一人になりたい。」
と思っても、今すぐその場を離れられないこともあります。
それでも、自分の気持ちに気づくことには意味があります。
なぜなら、
「私は納得して引き受けた。」
のか、
「断れないまま無理をして引き受けた。」
のかでは、心に残るものが違うからです。
自分の気持ちがわかったうえで選ぶことができれば、たとえ相手に合わせる選択をしても、それは「自分を失った選択」ではなくなります。
「納得して引き受けた」というのは「私は100パーセント納得して引き受けた」ということではありません。
まず自分の気持ちに気づく。それだけでいい。
そのあとで、どう行動するかを考える。
この順番が、自分と相手の両方を大切にする土台になります。
相手への配慮と、自分を後回しにすることは同じではありません
人を大切にすることは、自分を消すことではありません。
相手に配慮しながら、
「私は今、少し苦しい。」
と気づいてもいい。
誰かを助けながら、
「本当は私も支えてほしい。」
と思ってもいい。
相手の立場を考えながら、
「それでも、これは引き受けられない。」
と感じることがあってもいいのです。
自分の気持ちに気づくことは、相手を軽視することではありません。
むしろ、自分の状態を知ることで、無理を重ねて突然関係を切ったり、限界まで我慢して大きな怒りをぶつけたりすることを防げる場合があります。
自分の心を知ることは、人間関係を壊すためではなく、関係を無理なく続けるためにも必要なのです。
すぐに答えが出なくても大丈夫です
「私はどう感じているのだろう。」
と問いかけても、何も浮かばない日もあります。
考えているうちに、また相手の気持ちばかり気になってしまうこともあるでしょう。
それでも大丈夫です。
長い時間をかけて身についた習慣が、すぐに変わらないのは自然なことです。
最初は、
「今、自分の気持ちより相手のことを先に考えているな。」
と気づくだけでも十分です。
その気づきが、自分の心へ戻る小さな入り口になります。
少しずつ、
「私はどう感じている?」
「本当は何がつらい?」
「何を怖がっている?」
と、自分にも問いかけてみる。
すぐに答えを出すためではありません。
これまで後回しにしてきた自分の心に、
「あなたのことも見ていますよ。」
と伝えるためです。
最後に
相手の気持ちを考えられることは、あなたの大切な力です。
その優しさを、なくす必要はありません。
ただ、その優しさの向かう先に、自分自身も加えてみてください。
相手がどう感じたかを考える時、
「私はどう感じた?」
とも尋ねてみる。
相手が何を望んでいるかを考える時、
「私は何を望んでいる?」
にも少し耳を傾けてみる。
相手と自分の気持ちが違っていても、どちらかをすぐに消す必要はありません。
両方の気持ちがそこにあると知ったうえで、少しずつ選んでいけばいいのです。
自分の気持ちに気づくことは、わがままになることではありません。
人を大切にしながら、自分も一人の大切な人として扱うことです。
もし今、自分がどうしたいのかわからなくなっているなら、無理に答えを出さなくても大丈夫です。
まずは、
「私は今、何を感じているのだろう。」
と、自分の心の隣に座ってみてください。
すぐに言葉にならなくても、その問いかけ自体が、置き去りになっていた自分の心へ戻る一歩になります。
HARUBERRYも、相手の気持ちを考え続けて疲れてしまった方が、安心して自分の心に気づける場所でありたいと考えています。
人を大切にしてきたあなたが、これからは自分のことも大切にしていけますように。
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▶ 安心できる人と一緒にいると心が軽くなる理由|「この人なら大丈夫」と思える関係とは
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